第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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「……まあいいや、これで殺したことにしよう」  あろうことか、刺さったナイフを引き抜いて投げ捨てた。  すっと。何のためらいもなく。無表情で。  色々雑じゃない? そう涙声のヤジが飛ぶが気にしない。 「(ほど)いてやる。オヤジの呪い」  涙で揺れる瞳を、キリヤは真っ直ぐ見据え、続ける。 「だから、呪いを解くまで堂々と生きてろよ。……それが、俺を生かしたオヤジの義務だ」  自分を守った人間が、死ぬ前に笑顔で吐いた言葉を、自らを縛っていた言葉を、意地の悪い笑顔でオヤジに押し付けた。  間の抜けた表情で呆然としたオヤジは、「ああ……」と零して視線を落としたのち、乾いた笑いを零す。 「その呪いは、僕には解けそうにないね……。ってイタタタタ……」  ねえ、これ刺す必要あった? 起きあがろうと手をついたせいで、嫌みが走ったらしい。ぼやくオヤジを鼻で笑ったキリヤは、晴れ渡った偽の空を見上げた。  大事なレースを放り出し、主になることを受け入れ、これからを全て他人に任せ、神に土地を還すと約束し、壊すしかない呪いを解くと宣言した。  保証も計画性もあったもんじゃない。  これからどうなるか、全くもって予想がつかない。  明らかなのは、どうなろうが、これから、これまでとは違う、なにかに追われる日々が始まることだけだ。
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