第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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――野原の青年―― 「8年後です」  “その日”から数日後。スバルの丘の上に建つラキレム邸、その書斎。レウスから飛んで帰った情報屋は、青年や英雄の前で、誇らしげに書類を掲げた。  スバル建国に関する大陸の応答。主に、大陸会議の立場が示されている。ただ、短期間で出された応答だ。基本的な建国の条件が並べられているだけの、仮のもの。 「8年後の大陸会議にて、スバルの建国ついての話し合いを再度行います。それまでに、スバルの仕組みを整え、国民を集めよ、と。つきましては、4年後の経過報告へ向け、各地の魔族に声をかけ、意欲のある者には住めるよう土地を整えさせましょう」  結局、建国に待ったがかかることはなかったらしい。関わりのない国には有益、関わりのある国には脅しになる情報を出されたとなれば、その場で(・・・・)強く出ることができないことは当然ともいえるが、それは置いておくとして。  問題となったのは、時期だ。外交役はいても、国としての機能が整わない限り、大陸会議として公に認めることはできない、と。  その上、兎にも角にも上に立つ青年が若すぎた。  8年という期間は、建国をよく思わないどこかの誰かがなにかしら仕掛けるにも十分な期間だが、あまり気にすることでもない。彼らにとっては、これまでと大差なかった。  なににせよ、表立った動きのないこれまでと比べれば、大きな前進。 「九条殿、……いや、我らが主様。忙しくなりますよ、これから。貴方様には、これまで裏で行っていた医療行為や解呪を合法で行えるよう試験を受けていただきます。表に出て活動していただきますゆえ。と言いましても、これまでの私の店の――」  これに最も浮き足立っていたのは、間違えなく彼だった。淀みなく話し続けた情報屋。  正直、青年も英雄もその内容すべてを聞き取れていなかった。その内容が、情報屋の持つ分厚い書類の束に全て書かれていることも知っていた。  しかし、青年も英雄も情報屋の言葉を遮るようなことはしなかった。  年相応ではないが見た目相応にはしゃいでいる、“その日”を最も待ちわびていた者を、彼らなりに祝福していたのだ。 ―― ――――
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