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スバル、リーリエンの丘の上に立つ青年の目の前には、なにもない広大な土地が広がっていた。
髪をなでる風に目を細めた青年は、そのだだっぴろい土地のとおもなさに当てられたように、仰向けに倒れ込んだ。
青年は、地面に身を任せ、目を閉じる。
若い草が肌をくすぐる。成熟した草は風に煽られ、心地のよい音を耳に届けた。
「終わったと思ったら、もう始まるんだね」
暖かな声が降り、青年の口角は上がる。
目を開けば、その瞳の色を移したような雲ひとつない青空が広がっている。
青年は大きく息を吸う。葉が口に入り、急いで吐き出す。苦い味が口に広がり顔をしかめた。
それに笑い、青年はまた、空を見つめる。
「……お前さ、空の色好き?」
青年は空に手を伸ばす。
「好きだよ。あたりまえじゃない」
そりゃよかった。空に伸びた手が、空を掴んだ。青年は、その瞳に空を戻し、笑う。
「――俺も。この空の色が、ずっと好きだった」
少々開き直りも入った明るい声は、広がる空色に吸い込まれていった。
物語は、彼の選んだ平和と共に。
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