第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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――逃走の主役Ⅵ―― 「ありがとう。まじありがとう」  結城ユウトは、心からの感謝を述べていた。 「家にも来ていたわ。大変ね」労いの言葉をくれる羽崎カナハと、「幻覚、見せてやったから。見えてない奴に、触れられるまで、大丈夫」周囲から見えないよう、魔法を使ってくれた奥菜蓮に。 「ありがとう」頼もしい仲間に、頭を下げていた。 「いやあ、声をかけられてびっくりしたよ、城ノ内さんに。音もなく立つんだもん、背後に。まさか、こんな面白いことになっているとは。……ああ、知ってたけどね、ぶっちゃけ」面白がる一宮テイカを除いた、だが。 「おめェなァ」人型になってそばに立つ黒羽が呆れる。 「でもでも、今頃柾みたいに迷子だよ、ぼくの風がなかったら」  テイカの髪が風に揺れた。  そう、彼らのおかげで追っ手から逃れることができたのだ。  追われていることが、代表シルビアの耳に入り、保護を彼らに命じたらしい。派遣屋のメンバーでは目立つ。学生ならまだマークされないだろうと。  例のごとく柾は勘で飛び出し、テイカは風を繰って探し出してくれた。  もちろんだから結城も、テイカが苦手なだけで、感謝していないわけではない。 「で、柾は?」 「不調らしいよ、勘が今日は」  結城くんに関する声が多いからかなー。そう呟くテイカの首周りには半透明の布。どうやら、風を繰って周囲を探り続けているらしかった。 「歩こう、怪しまれるから。つけられてるし」  繰る風に目を細めるテイカに促され、結城たちは大通り沿いを歩きだす。
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