第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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 追われずに歩く街は、落ち着きを取り戻していた。  聞いた話によると、月城(つきしろ)三汰(さんた)や派遣屋メンバーらのおかげで被害を最小限に抑えることができたそうだ。  それでも、レウスやバラナル内の他の地域と比べれば、シリウスの被害は大きなもので、家や店を破壊されたものもいるし、民にも派遣屋シリウスのメンバーにも死者がでた。  結城が目にした記事にも、“こうなる前になぜ防げなかったのか”という国や派遣屋、さらには《異界の旅人》を批判する文面が載っていた。  確かに気になる。だが、それ以上に結城が気になるのは、その批判記事を鵜呑みにし、追ってきた中にもいたような、《異界の旅人》を恨む人間がどれほどいるかである。  これからの生活に関わることだ。 「噂って結局どうなってる?」だから、テイカに確かめた。 「え? 神の遣いであるカラスを従え、黒幕を討ち取った異世界の勇者様のこと?」 「……なんだそれ」  『変人月城教諭が珍しく受け持った、カラスと話す痛い新仮生徒』から、かなりの変わりようじゃないか。  戸惑う結城に、テイカはさらに続ける。 「今のところ、解決したことになってるよ、全部。よくわからないことに関しては。結城くんが来てからあたりの」 「新聞に載ってるだけじゃなく?」 「だけじゃなく」 「全然違うんだけどな」 「違うんだけどねえ」 「え、じゃあ魔女とかのことも?」 「魔女のことは、全然ない」 「なかったことになってるわ」  結城は唸る。確かに大陸に手を出したのはオーザンだが、その裏の動機には魔女がいるのだ。  (から)の民を恨む魔女が――。 「だからか……?」  結城はふと顔を上げる。  魔女、いやスバルの首都であったリーリエンの土地神が元凶となれば、魔族や(から)の民がバッシングを受けるのは必至。  だがそうだとして、これだけの事件の情報を統制するとなれば、組織あるいは国単位で動かなければできない。 「……こわ」  結城は身震いをひとつすると、それ以上考えることをやめた。 ******
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