第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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******  歩き始めて10数分。逃走劇は、唐突にもたらされた。  それは、迷子だった一宮柾によって。  シリウスまであと数100メートルと迫ったところ。神の悪戯か、本当に柾が絶不調日だったのか。最悪の形で彼は合流した。 「なー! ユウト見つかった?」  蓮の幻術にかかったまま、つまり結城が見えない状態のまま、柾は勢いよく結城の背中につっこんだ。 「う゛」「ん?」  よって「見えてない奴に、触れられるまで、大丈夫」だった蓮の幻術は解けてしまったのである。 「おー、無事だったか。よかった」  そんなことを知らない柾は結城に気がつき、背中をたたいてきた。 「柾もありがとうな」  そんなことを忘れていた結城ものんきに柾へ感謝した。 「ちょっと柾!」「解けちゃった……」「あーあ」  必死に結城を隠していた3人だけが、それに気がつき、カハナは怒り、蓮は落胆し、テイカは笑った。 「羽崎どうした? というか、よく見つかってないな」 「あ……」  この辺お前探してる人だらけだったよ。そう笑顔で言う柾に、結城はようやく事態を飲み込んだ。  恐る恐る顔を上げ、周囲を見回す。  数名が足を止めて結城らを見ていた。  再会を喜ぶ若者を見守る温かい目線もあったが、大半が、突然現れた結城と目が合った途端、その表情を狩人がちょうど良い獲物を見つけたような嬉々としたものへと変える。  その表情につられて、結城の口角もあがった。  悪寒と、後ずさればにじり寄る狩人たちの圧にその笑顔は引きつった。額に冷や汗がにじむ。  結城はくるりと向きを変え、地面を蹴った。 「俺……っ先派遣屋まで走るわ!」 「じゃーまたいつかなー!」「じゃないわよ柾、追うの!」  逃げ出した結城を追うために走り出した追っ手たちのその後ろには、今生の別れかのように大きく手を振る柾に、その頭をたたいて走り出すカナハがいる。
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