第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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「よっ、忙しそうだねえ」  久々に動いただけだというのに、どうしてよく人に出会うようになるのやら。  嬉しい人間なら大歓迎なのだが、逃げ初めてからすぐ、隣にぬっと現れた大きな影は、動く前に同じ場所にいた、特に会っても嬉しくはならない人間だった。  結城はそいつに一瞥くれてやると、盛大なため息をつく。 「忙しそうだねえじゃねえよ。どうにかしてくれよ」 「無理だねえ」  走っているというのに、のどかな原風景の中を歩いているような調子で返すのは、諸悪の根元であり、魔王であり流離いのフリーターでもある飯田シュウ。  彼はいつものガウンは羽織っているものの、ラフな格好でいる。 「なんで」 「僕も逃げてる」  アンダーソン君に売られちゃったと、飯田シュウは困ったように眉尻を下げて笑った。 「ああ……。そんな気はしてた」  結城の記事に並ぶようにして、シュウの顔がはっきり写った写真が新聞を飾っていたのだ。そりゃあもう、お尋ね者かよとツッコミをしたくなる程に大きく。 「話題の有名人のツーショットだ」 「明日の新聞の一面は僕たちだね」 「全然うれしくねーわ」  現実逃避にふざけたやりとりをしたのち、2人は閉口した。  走りにくそうな革靴の底が地面を叩き、もう壊れてしまいそうなボロい肩掛けの鞄ががさごそと揺れる。  飯田シュウが、小さく息を吸う。
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