第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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また性懲りもなく。  内心で毒づく声が響き、結城は自嘲気味に笑う。 「150円ジュース代、絶対返しにこいよ」  口に出した一言が、やけに鮮明に結城の耳に残った。  しかし、すぐに正しく意味が伝わったか不安になる。オークで返されても困るのだ。だから、「ああ、ちゃんと“円”で」と付け加えようと口を開くが―― 「キリヤに呪い解かれないうちに、ね」  返ってきた声に、結城はその口を閉じた。  飯田シュウの顔色を窺おうとは微塵も思わなかった。たった150円。ただの口実を作っただけ。意味を理解し、返しに来るも来ないも、選ぶのは飯田シュウだ。  現実を見れば、結城はいつ帰ることができるのかすらわからない身だ。そもそも返す機会もないまま一生を終えるかもしれない。  だが、それは今どうでもいいことなのだ。 俺は、お前との繋がりを断つ気はない。  それを伝えたかっただけなのだから。  甘いだとかズレてるだとか言われる所以が、こういったところにあることは結城も薄々感じていた。同時に、どうしようもないことだとも。  開き直っては、いけないのだろうが。 「ユウト。ごめんな、ありがとう」  飯田シュウの声が降る。 「おう、でもお前――」  勝手に家に入るなよ。そう伝えようと顔を上げかけたところで、(くう)を鞭でたたくような音が響いた。 「……え゛?」  隣に目をやると、飯田シュウの姿は忽然と消えている。  後ろを見れば、魔王を追っていた者たちを吸収し増加した追手。  そう、飯田シュウはいつもこんな感じだ。 「……て、ざっけんな!」  やっぱり突っぱねればよかった。諸悪の根源を恨む結城は、涙目になりながら逃走を続ける。
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