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「――ってもしかして鍵って『如意棒』?!」
そう叫ぶ結城の握る『如意棒』が、手の中で勝手に波立ち、急激に縮む。
「ったく。『如意棒』っつったら見事に“棒”の使い方しかしねェ」
「はあ?」
「変幻自在ッつったのに」
「んなこといわれても……ていうか、これ俺の家の鍵じゃね?」
握る手を開き、元『如意棒』に目を向ければ、そこには鍵があった。
しかし、鉄でできた、一般人なら必ず目にしたことがあるであろう普通の、ごくごく普通の形状をした鍵だ。それに、その鍵には、結城が何年も前に買った、もう色の剥げているサッカーボールの鈴のキーホルダーが付いている。
結城には、見覚えしかない代物だ。
「なあ、これ家の鍵じゃ――」
異世界の扉の鍵ってせめてこう、金色で――
鍵が波立ち、キーホルダーが消え、金色に変わる。
もっとこう、重厚な感じの古めかしい。
また鍵が波立ち、金が錆びつき、複雑なつくりの重いものへと変わった。
「な……なんか、変になってる……!」
軽くなったり、細くなったり、カードになったり、手のひらの上で次々に変わっていく鍵に結城は焦り、黒羽にすがるように助けを求める。
黒羽は鍵に目を向け、大げさにため息をついた。
「おめェの頭ん中の鍵のイメージがコロコロ変わってんだよ。……やっぱ『如意棒』ってイメージつけといて正解だったな。気にすんな、お前がそれに気が付きいいんだ。帰れるぞ」
「はあ?! そんなこと言われたってどうやって――」
結城の足が、大きな門の下の地面を踏む。
一瞬、結城の目に映る景色が色を失った。
その瞬間というのは、周りの人間からはこう見えていた。
結城が、消えた。
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