第四章 主役は怒り、英雄は微笑む

22/23
758人が本棚に入れています
本棚に追加
/882ページ
 ベッドに座った状態で、手元に視線を落とす。  どう言葉を切り出せばよいか迷っていると、シュウがその沈黙を破った。 「……気分は?」 「最悪、かな」  結城は俯いたまま答える。  素直な気持ちである。こちらへ来てからというもの夢の中で彷徨い、思い通りにいかないようなもどかしさに囚われたままであるので、気分はと聞かれれば、最悪としか答えようがない。 「そっか」  シュウは微笑みを含んだような言い方で返す。  結城は顔を上げ、首をかしげた。ここは、安心するような表情を浮かべる場面ではない、と。 「……ああ、ごめん」  シュウは結城の表情に気づき、困ったように笑った。 「今の状態で気分が最高潮だったら、僕はユウトの精神状態を心配しないといけなかったからね」 「……とりあえずもう一回殴ってもいいか?」 「いやいや」  結城が拳を作っていえば、シュウは先ほど重点的に殴った場所を押さえ後ずさった。  結城は顔をしかめて笑った。やはり、彼は飯田シュウである。  その表情を見て、シュウは真剣な顔つきへと戻る。 「帰れるかとか聞かないの?」 「……難しいだろうってのはキリヤに聞いたよ」 「そっか」  特訓中にさらりと言われ、断言はされなかったのだが、随分とショックは受けた。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!