第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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――流離(さすら)いの門出――  古びた門の周りを、多くの人間がうろついている。 「消えた……」 「あっけないというか、嵐のようだったというか」 「やっぱすごいね、仲良いんだ、魔王とも」  少し離れた建物の屋根上。  突然その姿を消した《異界の旅人》を探す人々を眺める彼らは、各々の感想を口にした。  しかし、あまりに唐突な別れ。絵描きも、少年も、少女も、そして噂好きも、門の向こうを見る表情は、どこか寂しげだ。  風が、どこからか木の葉を運んでくる。 「柾、消えるの、わかってたのか」  最後、《異界の旅人》に大きく手を振っていた少年を思い出し、絵描きが問う。 「あー。なんかそんな気がした」  誰よりも先に察してしまった少年は、寂しげな顔をして笑った。  彼らはまた口を結ぶ。  短い期間ながらもともに過ごした仲間だ、せめてきちんと別れの言葉を言いたかった、そう思うのは自然だろう。  だが、彼らの心境など、世間には関係のないこと。  静まった彼らの間に、離れた場所で「幻術だ」「転移術だ」と騒いで盛り上がる声が流れ込む。 「……で、どうするの? 私たち、大体の顛末を知っているわけだけれど。このまま、放っておいて良いのかしら」  少女が、門の前でたむろする者たちを指差して、肩をすくめる。  人数は減ったものの、《異界の旅人》が消えた理由についての議論が巻き起こっていた。  もちろん、彼にその技術がないことを知る少年達には、議論する理由もない。 「放っておいて良いんじゃないかなー」  噂好きの彼が、やんわりと少女の問いに答えた。 「これはぼくの見解だけどさ。口にした時点で嘘が入るんだよね。その場にいた人が過去のことを話しても、それも全部が真実じゃない。最終的に真実は、その時、その場所にしかないんだ」
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