第二十六章 主役は逃走し、彼らの知る真実は歩く

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「つまり?」 「結局真実じゃない。ぼくらが話しても」  それに、面白いことが正しいんだよ、当事者以外には。噂好きの彼は、そう呟くと、大きく延びをして空を見上げた。 「あまりに違っていたらなにか言うかもだけど。放っておくかな、ぼくは。もう帰っちゃったから、困ることはなにもないわけでしょ。結城くんには」 「なにか言うって……できるの?」 「大体わかるよ。どう広まるか、誰に伝えればね」  自信たっぷりの噂好きに、少年は呆れのため息をこぼし、絵描きは少し表情を和らげた。 「さすがだな」 「まあね」 「その時は、手伝う」 「ありがとう、蓮くん」  少年は皮肉混じりに、絵描きは楽しげに噂好きを褒める。  「私も黙っておくことにするわ」  少女も困ったように笑い、「帰りましょ」と門へと背を向けた。  少年と絵描きも、それに続く。  噂好きの彼は、風を繰り、門のからの声を集めて耳を澄ませた後、小さく息を吸う。 「おい、テイカ?」  少年が足を止め、眉をひそめる。  と、噂好きの彼は少年らを見てにやりと笑って見せた。 「いやあ、面白いよねえ、ぼくらの立ち位置。役得かな?」  手を双眼鏡持つような形にし、門にたむろする目撃者たちを覗き込む。 「人の間を巡り巡って流離(さすら)って、噂のたどる果ては英雄か怪物か」  異世界の英雄が生まれるかどうかは……のちの物語を生きる者にしかわからない。
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