最終章 主役が戻れば、物語は繋がる

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――老人の物語――  ある場所に、ひっそりと暮らす老人がいる。  彼は、長く偉大な旅から、帰ってきた。数10年も前の話だ。  旅先に留まるという選択肢も、彼にはあった。だが、彼には帰る理由が――会いたい女性がいた。そのために、彼は帰ってきた。  その事実を知る者は少ない。  しかし、彼が帰ることができたのは、旅に出て10年が経った頃。  突然旅に出、突然帰ってきた彼は、自らの存在を忘れたかのように通り過ぎていく世界を見て、理解した。 ここにはもう、自分は必要ない。  そう思った彼は、生まれ育った町を出た。  結局、彼女には会わなかった。いや、会えなかった。彼が戦争で死んだと思っていた彼女には、相手がもう既にいたのである。  彼はその男のことを知っていた。彼女の悲しみを支えうる、器の大きな男であるのは確かだった。  それに、彼女とのことは、幼いころの親同士の約束であった。忘れ去られるような、古い約束。それでも彼は彼女に惚れていたが、それは、彼女の幸せに介入する理由にはできなかった。  彼女が幸せならば、それがいい。彼は身を引いた。  別の地へ行った彼は、そこで、今はもういない妻と出会い、子を授かる。  彼はよく子に、旅の話を面白おかしく聞かせた。  子が成人を迎えた折に、ほろりとその話が真実であると告げたが、子は冗談と受け取ったらしい。その後、特にその話に触れることは無くなった。
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