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「そう言われても、受け止めきれてないんだけど。まあ、4日は経つわけだし、現実見なきゃだし。けど、帰る方法は探したいと思ってる」
シュウに発言されるのを拒むように間髪もなく口から出る言葉。
思った以上に追い詰められていることに気づき、結城の顔に自然と笑みがこぼれる。
自嘲気味ではあるが、別に悪いものではない。
発言の内容は傍から見れば、軽いと言われればそうなのだろう。
現に悩むべきことは山ほどある。向うに居る家族、友人。
特訓中にもよぎったが、概念も環境も何もかも知らない、自分を知っている人間も居ないに等しい、そんな場所で生きていけるのか。
言ったは良いものの、本当に帰ることができるのか。
ふさぎ込んでもよかったのだ。だが精神的にもつ気は全くなかった上に、先程シュウに言ったように、そろそろ現状をしっかり捉えなければならないとも感じていた。
動いたとしても、前述した心配は消えることはないだろうが、問題を解決したいのなら行動するしかない。いつだってそうなのだ。
「取り敢えず、ここで生きる」
結城が決意を固めると同時に、彼の腹が悲鳴を上げた。
だいぶ寝た感覚があった結城は、辺りを見回し、時計を探す。
時計は7時を過ぎていた。
不意に、今更ながらある違和感に気づく。
「なあ、黒羽とキリヤは?」
今まで黙って聞くだけだったシュウは、眉をしかめて小さく笑った。
「ああ、キリヤは出かけて、黒羽くんは大広間にいるよ」
「じゃあ、俺も行く。これからどうするか決めなきゃだし」
心の内で、なんの発言もせずにいてくれたことに感謝しつつ、結城は赤を基調にした絨毯に足を下した。
「……ユウトってユウトだよなあ」
「なにそれ」
シュウの呟きに笑い、結城は漸く一歩目を踏み出す。
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