第一章 物語は走りだし、主役は逃走する

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 ドアの向こうに居たのは2人。  1人はドアの真ん前に立つ(チャイムとドアノブの犯人と断定)やたら背が高く、顔の小さい言わばモデル体型、レンズの丸いサングラスを鼻眼鏡風にかけた、外国人風のブロンドの男。  もう1人は、アパートの通路のフェンス(結城の部屋は2階にある)に寄りかかり、スポーツサングラスをして表情は見えないが、ブロンドの男を呆れ顔で見ているであろう、中肉中背でこれと言って目立ったところはない茶髪の男。 「結城ユウトさんで間違いないですよね?」  ブロンドの男が笑顔で尋ねる。  しかし、見れば見るほどモデルである。シンプルな服が、素材の良さを一層引き立たせている。  ……3月初旬の寒い時期に、なぜサンダルなのか気になるが。 「……あ、はいそうです」  ぼーっとして答えてないことに気付き、慌てて答えると、ブロンドの男はにっこりと笑い、口を開く。 「貴方にお会いしたい、という方がいらっしゃいまして、付いて来ていただけないでしょうか」 会いたい? 俺に? 「はあ、俺に……ですか」  怪しすぎる申し出に、結城は無意識に一歩引いてブロンドの男を見た。  ブロンドの男は笑顔のままである。 何か臭いな。  結城は考える。思い当たる節がなさすぎるのだ。  先に述べたように、叔父がちょっと裕福で、姉にちょっと出どころのわからない金を渡されるだけ。いたって平凡な、まるで目立たない普通の高校生である。  姉が危ない金に手を出していたら?  いや、それはない。叔父の家に居る時点でそれは不可能。言い忘れていたが、叔父は警察のよくわからないが結構いい地位に居る。  では、他の可能性は?
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