第五章 主役は一歩進み、周りに激流しか居ないことに気付く

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 しばらくして、未だ開店時間ではないにもかかわらず、客の訪れる音が鳴る。 「つーっと……いた。マスター、俺は開店してから注文しますんで」  店主にぷらぷらと手を振りながら言うと、男は九条の居るテーブルまで行き、足を止めた。  九条は自らの前に立った銀髪の男を見上げる。  ワイシャツに緩めた黒いネクタイ。 「さて九条、座ってもいいでしょうか?」  そして、投げやりでワザとくさい敬語。 「……三汰氏」  彼は月城(つきしろ)三汰(さんた)。学校の教員である。  九条は、小さくため息をつき、本へと視線を戻した。  月城は、そこらにあった椅子を手繰り寄せる。 「それにしても、九条が学校に出てくるなんて珍事でしたよ。雨でも降るんですか?」  そして、溜息をつきながら座った。 「三汰氏にそれを聞かれても困ります。理由は、強いていうなら、明日から長期休みですし」 「真面目にやったらどうです?」 「三汰氏に言われたくないです」  九条は淡々と答える。 「ああ? 俺はいつも真面目ですよ?」 「いうなら、言動」 「ああ、よく言われます。直しませんが」  九条は呆れて無言になり、ページをめくった。  店主が準備をする音とページをめくる音だけが、店内に響く。
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