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しばらくして、未だ開店時間ではないにもかかわらず、客の訪れる音が鳴る。
「つーっと……いた。マスター、俺は開店してから注文しますんで」
店主にぷらぷらと手を振りながら言うと、男は九条の居るテーブルまで行き、足を止めた。
九条は自らの前に立った銀髪の男を見上げる。
ワイシャツに緩めた黒いネクタイ。
「さて九条、座ってもいいでしょうか?」
そして、投げやりでワザとくさい敬語。
「……三汰氏」
彼は月城三汰。学校の教員である。
九条は、小さくため息をつき、本へと視線を戻した。
月城は、そこらにあった椅子を手繰り寄せる。
「それにしても、九条が学校に出てくるなんて珍事でしたよ。雨でも降るんですか?」
そして、溜息をつきながら座った。
「三汰氏にそれを聞かれても困ります。理由は、強いていうなら、明日から長期休みですし」
「真面目にやったらどうです?」
「三汰氏に言われたくないです」
九条は淡々と答える。
「ああ? 俺はいつも真面目ですよ?」
「いうなら、言動」
「ああ、よく言われます。直しませんが」
九条は呆れて無言になり、ページをめくった。
店主が準備をする音とページをめくる音だけが、店内に響く。
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