壱罪 : 八幡かずら

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「ふざけんなッ! 俺はその時間、ずっと自分の部屋にいたんだよッ! 植草の野郎をボコれるはずねぇだろがッ!」 黙って聞いていた笹山さんが立ち上がり、怒りを露わにする。怒鳴られた恐怖に吉野さんは身体を震わせ、裁判長が「被告人、口を慎みなさい」と注意を促す。 「さ、笹山さんの言う通りです! 彼は自分の部屋にいたので、犯行など――」 「それを証言してくれる人は、いるのですか?」 私の言葉にかぶせて、安河内検事が言い放つ。証言者などいない。笹山さんは部屋で1人だったから。 「そっ、そん時に見たテレビ番組の内容なら言えるぜ」 「そんなもの、あらかじめ録画をしておけばいいだけの事。何の証拠にもならない」 「ぐっ……! ち、ちくしょう……! おい弁護士! お前も黙ってねぇで何か言い返しやがれ!」 矛先を向けられた私は、慌てて資料に目を通す。
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