壱罪 : 八幡かずら

2/43
前へ
/220ページ
次へ
「――それでは只今より、被告人【笹山(ささやま) 吾朗(ごろう)】に対する審理を始めます」 地方裁判所第2法廷内。10人も満たない傍聴人に囲まれ、弁護士である私【八幡(やはた) かずら】は緊張に足を震わせていた。 離れて対峙する検事は、早くも勝利を確信したような笑みを浮かべている。睨み付ける度胸のない私が目線を反らすと、部屋の中央に立つ被告人の姿が『嫌でも』映ってしまう。 面倒臭そうに身体を揺らす目つきの悪い男性。派手なスーツに身を包み、首や指にはクロムハーツの装飾品。くすんだ金髪と顔のあちらこちらに埋め込まれたピアスが、私の恐怖心を更に煽ってくる。 「おおお、落ちつけ……やれば出来るやれば出来るやれば出来る……!」 掌に人と書きながら自分に暗示をかけていると、心の囁きが呟きになっていたのだろう。裁判長がこちらを見ながら咳払いをしてみせた。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加