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「――それでは只今より、被告人【笹山 吾朗】に対する審理を始めます」
地方裁判所第2法廷内。10人も満たない傍聴人に囲まれ、弁護士である私【八幡 かずら】は緊張に足を震わせていた。
離れて対峙する検事は、早くも勝利を確信したような笑みを浮かべている。睨み付ける度胸のない私が目線を反らすと、部屋の中央に立つ被告人の姿が『嫌でも』映ってしまう。
面倒臭そうに身体を揺らす目つきの悪い男性。派手なスーツに身を包み、首や指にはクロムハーツの装飾品。くすんだ金髪と顔のあちらこちらに埋め込まれたピアスが、私の恐怖心を更に煽ってくる。
「おおお、落ちつけ……やれば出来るやれば出来るやれば出来る……!」
掌に人と書きながら自分に暗示をかけていると、心の囁きが呟きになっていたのだろう。裁判長がこちらを見ながら咳払いをしてみせた。
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