プロローグ 『誰かの為に尽くして死んで』

2/12
前へ
/30ページ
次へ
 開け放たれた窓から吹き込む暖かい風が、俺の頬を優しく撫でる。しかし、その風は憂鬱だ。何故ならその風が吹く度に俺は頭痛に悩まされるからだ。悩みの種というやつだろう。  この春から加門市に位置する善事高校の普通科の一年六組になる草薙 一。クラス分けは実力と学力が均等になるように。と配分されるものだが、俺がいるクラスは違う。  通称悪魔の巣窟と蔑称される六組は、所謂問題児ばかりを集めたクラスだ。  それは、精神面であったり、肉体面であったり、社会不適合だったり。等々生徒によって千差万別の理由があるが、俺は少々珍しかった。  『スキル』。この世界で人間が一人ひとつだけ持つ異能。その存在は古くから確認されており、最古の情報としては小学校で習う弥生時代の文献が有名だろう。  スキルは神秘の力にも、災厄を呼び込む魔性の力にもなり得る為、すべての学校において必修科目となっている。  通常スキルは産まれついて持っていたものを、そのまま死ぬまで行使するが、俺のスキルは違った。  元々ONOFFの無かった俺のスキル、『ラプラスの悪魔』にONOFFを付加したのだ。  俺のスキルの能力が今までにないものだからかは知らないが兎に角、スキルが変化や進化することは人類初の事だったのは確かだ。  「場合と状況によって最善の答えを導き出すスキル」。それが俺の『ラプラスの悪魔』だ。 「ここか」  一年六組の引き戸の入り口をガララと開けるとそこには―― 「お前で最後だ草薙。そこ、日暮の隣に座れ」  予想外だった。まさか俺ともう一人しか今年は入学しなかったとは。  担任教師の言われるままに、日暮と呼ばれた女子の隣にあるただひとつの机に着席する。日暮と書くのに「ひぐらし」じゃなくて「ひぐれ」なのか。  日暮は俯いたまま俺に見向きもしない。勝手に決め付けるのは失礼だが、恐らく社会不適合のケースだろう。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

295人が本棚に入れています
本棚に追加