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「可愛い、って言えばいいかな」
……訂正しよう。
岸本は、駄目だ。
こういうことを平気な顔で言う奴は信用できない。
良い奴でもなんでもなかった。
でも、こんなこと言われたことないから、むず痒い。
「だ、黙りなさいっ」
私は机の上に置いていた自分の筆箱をすかさず手に取り岸本に投げつけた。
その勢いで立ち上がってしまい、後悔した。
そして気づく、自分が多少ながらも照れてしまっていることに。
「歌河さん、本当に面白いね。反応が新鮮で凄く可愛い」
彼は私が投げた筆箱を拾い、埃をはらってからもとの位置に戻してくれた。
でも、科白が気に食わない。
顔から火が出そうなくらい暑い。
恥ずかしい。照れ臭い。
「…そういうの、やめていただけますか」
固く手を握り、今できる精一杯の言葉を発してみたものの、動揺しすぎて声が震えている。
「あ、ごめん…。こういうの苦手だった?」
「苦手ですから」
「うん、ごめん」
少しきつく言いすぎたかもしれない。
岸本を横目で見てみると、反省したような、少し落ち込んだような表情をしている。
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