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「いってぇ……」
「貴方が悪いんでしょ。もっと感謝しなさい」
「はいはい……っ!?」
刹那、背筋が凍るような気配を感じた。この気配は間違いなくアフリートウルフのものだ。およそ200メートル後ろまで迫っており、このままではあと数秒で追いつかれてしまう。滝の水で身を隠そうが、隠れるところを見られては元も子もない。
俺はセリーナの許可も得ずに腹を抱き抱(かか)えて洞窟に飛び込む。このときセリーナが叫びそうになったので、慌てて手で口を押さえた。
スタンッ。
無事洞窟内に入ることができた。絶妙なタイミングで凍らせた部分が滝に呑まれる。すぐにアフリートウルフの気配を探ると、先程いた岩場でうろうろしているようだった。まさに間一髪だ。
「声上げるなよ……」
まだ口を押さえたままのセリーナに念を押す。吐息が手に当たってくすぐったいのは、また別の話。
セリーナは俺の行動を察したようだ。頷いたのを確認して、俺は手を放した。
「どうしたの?」
俺の緊迫した表情に、邪な心がないことがわかったのか、セリーナは小声で尋ねてきた。
「さっきいた岩場にアフリートウルフがいる。今は何もせずやり過ごすぞ」
「……わかったわ」
しばらくアフリートウルフはうろちょろしていたが、痺れを切らしたのかどこかに行った。匂いがわからなくなったのだろう。
「ふぅ。もう大丈夫みたいだ」
「……さっきから思ってたんだけど、なんで見えてないのに、いるとか、いないとか分かるのよ」
「気配みたいなもんだ」
「あり得ないわ」
俺からしてみれば魔法の方があり得ない。恐らくそういう感覚なのだろう。
10分くらいだろか。しばらく休憩したので、俺は無言で立ち上がり言葉を掛けた。
「……そろそろ行くか」
「えっ? ……わかったわ」
何か言いたげな顔をしていたセリーナだが、状況が状況なので渋々同意したようだ。
今こんな状況下なのは自分だけじゃない、と。
重い足取りのまま、俺達は洞窟をあとにした。
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