198人が本棚に入れています
本棚に追加
★ ★ ★
時は数分前に遡る。
「とにかく足を動かせ! 後ろを振り返るな!」
そんな目端を利かせたルアの声に反応して、アスナは無心で足を動かし続けた。恐怖からか呼吸が出来ていない気がするほどに。
「きゃっ!?」
すぐ後ろで誰かの短い悲鳴が聞こえたかと思うと、セリーナが木の根に足を捕られて、転けているようだった。
それをセリーナの後ろを走っていたルアが、頭を掻きむしりながら、こう叫んだ。
「皆先に行け! コイツは俺がどうにかする!」
最初はどうするかで悩んだアスナだが、アフリートウルフの雄叫びに怖じ気づいてしまい、ただ一心不乱に走って逃げてしまった。
その後、どのくらい走ったかはわからない。アレンを先頭にひたすら走り続けた。
気がつくと後ろにルアもセリーナも、ましてやアフリートウルフもいなかった。
だが、その代わりにゴブリンがいるのが見えた。最下級の最も弱い魔物だが、今の今まで、慣れない極度の緊張状態が続いていたアスナたちは、魔物に過敏に反応してしまいそのまま逃げてしまった。
その他にもスライムや低ランクの魔物など、どれも弱いモンスターだったが、構わず逃げ続けた。
数分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……。こ――んはっ、――ここまで逃げれば大丈夫だろ……」
「そ、そうだね……」
アレンの声を聞いて、アスナは息を詰まらせながら答えた。他の皆もそれぞれ膝に手をついたり、座り込んだりして呼吸を整えていた。
「それにしても暑いな。走り過ぎたか?」
「そうかも知れませんわね。もっと動きやすい格好をしてくれば良かったですわ」
「だな」
アレンとテュカの話を聞き、アスナも内心で同意する。季節が春な今、夜間は冷えると思って厚着をしたが、走って体が暖まってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!