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私はカーディガンに長ズボンだし、テュカちゃんに至ってはドレス……みたいな服だしなぁ。
アレン君やロイ君は、二人とも動きやすそうな服装だけど、シスル君なんかは……白スーツだし、今は凄く汚れてるんじゃないかな。
アスナは服が汚れてぶつぶつ文句を垂れる、シスルを頭の中で想像しながら周囲を見ると、シスルとおぼしき人物が見当たらない。
シスルが見当たらない。
「ねぇ、アレン君」
「ん? なんだ?」
「シスル君が……いない」
アスナがそう言うと、アレンも首を動かしシスルを探す。だけどどこにもいない。いつから居なかったかすら分からずじまいだ。
「くそっ、どこ行きやがった……!」
悪態をつくアレン。今この神域ではぐれてしまうのは、命に関わる問題だ。急いで捜さなければとアスナは思った。
「どうなさったんですか?」
「シ、シスル君がいないの」
その一言で全てを察したようなテュカ。ロイも横で聞いていたので状況は理解したようだ。
「でも、さっきから下位の魔物しか出てこないし、結構出口は近いと思うんだけど……」
ロイの言うとおり、たしかに弱い魔物しか出てきていない。しかしそれだけで出口が近いと言い切るには、情報が少ないように思われる。
「ここが安全なら、皆ここに居ろ。俺がシスルを捜してくる」
「だ、だめだよアレン君! アレン君まで一人になったら危険だよ!」
「じゃあこのままシスルを見捨てろっていうのか?」
アレンの声は荒げても、大きくもないのに、不思議とアスナの耳に、頭に、心に響く声だった。
「俺は見捨てられない。だから捜しに行く」
アスナは何も答えられない。一瞬でも、シスルを見捨てようとした自分がいるから。アレンとシスルでは、アレンの方が大切だから。自分のことがかわいくて、自分さえ良ければいいなんて思っているから。
――だから私は穢(きた)くて、なおかつ……
醜(みにく)い。
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