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★ ★ ★
俺はとにかく走った。
だが後ろにいる皆を置いて行く訳には行かない。スピードをある程度調節する。
正直遅いから置いて行きたい。俺ならもう一段、いや、もう二段階位はスピードを上げれる自信がある。
アレンとシスルを助けなければという使命感。
皆を置いて行けないもどかしさ。
依頼を失敗してしまうという焦燥感。
そして何より、これらの感情に対する葛藤。
あらゆる感情が俺の頭の中でぐるぐると駆け巡る。
「くそっ……」
つい口に出てしまう己の憤(いきどお)り。誰にぶつける訳もなく、ただただ大気にばらまいた。
「……そろそろ、限界ですわ」
「はぁ、はぁ。私も……」
「あと少しよ。頑張んなさい」
弱音を見せるテュカとアスナに、励ますセリーナ。ロイはというと余裕なのか最後尾でついて来ている。息も上がっていない。
そして突然、うっとうしく進行方向を妨げていた草木の先に、神々しい光が見えた。間違いなく月の光だ。
俺は臆することなく、その蒼白い光に向かって突き進む。
――視界が一気に開けた。
まず目に入るのは月明かりに反射し、鱗に覆われた巨大な生物。円形に広がっている草原の上で、王者の風格をあらわにしたように悠然と佇んでいた。
その横で瀕死の状態になりながらも、決死の思いで立ち上がるアレンとシスル。横にそびえる生物がでかすぎて、二人はこめ粒のように見えた。
「嘘……!? あれって……!」
追い付いたセリーナが口に手を当てて、目を見開く。“あれ”を見てしまったら大抵はそういう反応になるだろう。現に後ろの三人も、皆驚き過ぎて声が出ていない。
鉄板のような鱗に、見ただけで戦慄が走る牙と爪。強靭な筋肉質の体に、旋風を巻き起こすであろう巨大な翼。そして鞭のようにしなる尻尾。
あれは間違いなく魔獣の頂点に立つ、Sランクは必ず下らない最強の王者――
――ドラゴンだ。
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