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「ガァルルッ!?」
奇声を上げながら吹き飛んで行くアフリートウルフ。超至近距離から直撃した魔法に、飛ばされた後もダメージで中々起き上がれないようだ。
この隙に俺は駆け込んだ。良いとこ取りのような形になるが仕方がない。刀を持っている左手の親指で鍔を押し、刀を抜きやすいように引き上げる。そしてなんとか起き上がったアフリートウルフの目の前で、会心の一撃を放った。
「【居合い・勇旺舞進】」
飛び上がる赤黒い血の中で、一際(ひときわ)目立つ蒼い刀の軌跡。直後、アフリートウルフの首が吹き飛んだ。
ゴロッと転がった首を見て、青ざめる一同。場馴れしていない学生にはよくあることだ。今は俺も学生だが……。
刀を虚空で振り、刀に付いた血糊を払う。俺はアレンにお礼を言おうと振り返った。
「さっきは助か……った」
俺はアレンの顔を見て、違和感を覚えた。確か顔に傷がなかっただろうかと。
「なんだよ、ルア?」
「いや……なんでもない」
大方、治癒魔法でも使ったのだろう。アスナなら治せるだろうし、アレンは魔法に優(すぐ)れているようだから、自分で治すことも可能な筈だ。
そう考えた俺は、これ以上何も言わなかった。
「そういやルア」
が、逆にアレンが話しかけてきた。
「その刀、魔剣だったんだな。俺生まれて始めて見たぜ」
「ああ」
だろうな、と思いながら返事をした。魔剣は本当に数が少ない。現代の魔法使いが魔力――つまりケルムを全力でチャージしても、これほどの魔剣はまず作れないだろう。
俺は腰に提げている刀に触れる。ずっとこうしていたからか、腰に刀がないと落ち着かないのだ。
「ちょっと貴方!」
みんな怪我なく済み、早々と帰ろうとした矢先、突然セリーナがドラゴンに向かって大きな声を上げた。
『なんだ?』
「今のアフリートウルフくらい、ドラゴンなら余裕で倒せたんじゃないの? なぜ助けてくれなかったのよ」
『……はぁ、とても良い環境で育ったようだなお嬢さん。命の危機に瀕した場合、必ず誰かが助けてくれたのだろう』
「……なんですってっ!?」
『我の立場で考えよ。ほんの数分前に人間に襲われ、今度は人間が襲われたら、なぜ我は助けなければならないのだ』
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