ギルドの依頼

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「名前なんてどうでもいいじゃないか。俺は覚えてないし、“あんた”も記憶が曖昧。俺らは今日初めてあったんだ」  名前の話から急いで反らすため、早口になってしまった。怪しまれたかもしれない。 『フッフッフッ……ハッハッハッハッ!』  ドラゴンが突然大きな口を開けて、笑い始めた。とにかく迫力が半端ない。 『我を古龍と知っておきながら“あんた”呼ばわりするのは、今も昔もお主しかおらん。どうやら我の記憶は正しかったようだ』  たったそれだけで正しいとわかるのか、という俺の疑問を見透かしたようにドラゴンは続けた。 『その無愛想な態度。黒衣に近い服装に、蒼き刀。周囲の大気を振動させるほどの覇気。そしてなにより、お面の隙間から見える薄赤い瞳は、何かに囚われたような、深い悲しみに包まれている……』 「…………」 『間違いなく三年前に我の所に来て、「“神曲龍”はどこにいるか知らないか?」と尋ねたのはお主だ!』 「しん……きょく、りゅう……」  神曲龍とは、神がこの世界―マルシス―を創ったとき、同時に生み出された三匹の古龍のことを指す。別名“神の曲者”。天上、地上、地下にそれぞれ一匹ずついるとされ、魔物や魔獣のほとんどは、彼らの子孫から長い年月をかけて進化したと言われている。  無論、人間も含む。  そのため神曲龍たちは、生物の中で最も寿命が長い。古龍の中の古龍だ。  だがこの神曲龍たち。威張りはしなかったものの、縄張りを荒らされたり、気に食わないことなど、神曲龍たちにとって煩わしいものは全て蹂躙していった。  襲われた村、森、そこにいる生物も含め、何もかも消滅。木の欠片、蟻の子一匹すら残らなかった。  それからというもの、神曲龍にかかわることは一切タブーとされてきた。しかしこのタブーを破った一人の人間がいる。  レイン・ジェルザード。  後の大戦で活躍する英雄である。  彼は神曲龍の内、地上にいる“煉獄龍ナウル”を単独で討伐。そしてドラゴンの力を身に纏う【龍装(りゅうそう)】なる力を得たそうだ。
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