ギルドの依頼

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 このことは当時の吟遊詩人によって語り継がれ、今日(こんにち)でも伝説として残っている。  この伝説を信じ、多くの人間がドラゴンを討伐しに行くも、全て返り討ち。誰一人として帰って来なかった。  そして伝説を誰も信用しなくなった頃に現れたのが、俺だったそうだ。 『で? 結局あれはお主が倒したのか?』 「悪いが記憶にない」  正直に答えた。 「確か二年前よね。神曲龍が何者かに討伐されたのは」  そうセリーナが言うと他の面々も知っているのか、うんうんと頷いている。どうやら知らないのは俺だけのようだ。 「世界政府が千人の選抜部隊を送らせて確認しに行ったとき、神曲龍の首を持って帰ったときはびっくりしましたわ」 「そのあとに選抜部隊が『我々が着いたときからすでに神曲龍は死んでいた』って言ったときは驚いたよ」 「「……しかも二匹とも!」」  テュカとロイが見事にハモった。テュカは若干顔を赤くし、ロイは照れくさそうに、頬をひとさし指で掻いていた。 「てかよ。神曲龍くらいの奴をルアが討伐したんなら、さっきのアフリートウルフくらいへのカッパだろ。でも苦戦した。ということはルアは神曲龍を討伐してないんじゃねぇか?」  頭良いなアレン。かなり説得力がある意見だ。 『うむ。お主の言うことが最もだ。我もこのことはもう忘れよう……あっ!』  ドラゴンが『あっ!』って言ったら、空気が振動して心臓に悪いからやめてほしい。 「どうしたんだよ」 アレン言った。 『いや、思い出したのだ!』  ま、まさか俺の名前か!?  まずい、かなりまずいぞ! 「なにを?」 『我が先程から話している人間の通称だ』  通称かよ……。ビビらせんなぁ、まったく。よしっ、これで確定したな。俺は通称なんてないから、神曲龍を倒したのは俺じゃない。  ……記憶を改変、または消されていなければの話だが。 「へぇー。なんてんだよ?」 『“孤高の黒虎(くろとら)”だ』  途端頭の奥がチクリと痛んだ。
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