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シスルは彼女の頬を、両手で優しく包み、顔を自分の方に向けさせた。彼女は下唇を噛み締め、目をぎゅっと瞑っていた。
――いつもこうして、ボクからの暴行に耐えているのか……!!
彼女が開眼すると、その目は今にも泣き出しそうなほど涙が溜まっていた。それを見るとシスルは申し訳なくなり、彼女の顔を自分の胸に押し付ける。
「そうやっていつも我慢していたのか……。本当に、本当にすまない。この罪は一生償う。本当にすまない……」
「きょ、今日のシスル様は優しいのですね……。どうなさったのですか?」
「信じて貰えないかもしれないけど、これが本当のボクなんだ。いつも君に暴力を振るっているのはボクじゃない」
「そうなの……ですか?」
彼女の大きな瞳がさらに大きくなる。
「ああ。だが記憶は残っているんだ。君を傷つけた。たがらボクは今日こそ“けり”をつける!」
「けりを、つける……」
「もしかしたら、そのけりをつけることができなくて、失敗するかもしれない。そしたら前のボクに戻るだろう」
「そんな……!?」
彼女の顔が歪む。つかの間の祝福かと思ったのだろう。また、泣かせてしまう……!
「でもまた今日のように呪縛が解き、正気に必ず戻る。そしてまた、けりをつけるとほざくはずだ。それが永遠と続くかもしれないけど、ボクを信じて待っていてくれないか?」
「…………」
彼女は俯いたままただ 黙りこもっていた。当然だろう。昨日まで酷いことをし続けていた男が、「あれは本当のボクじゃないんだ!」なんて言ったら普通は信じない。
「……はい! 私はシスル様を待ち続けます!」
しかし彼女は満面の笑みで、そう答えてくれた。
「……ありがとう。さっきも言ったけど、この罪はボクの十字架だ。一生をかけて償う!」
「あ、あの、それは……どういう……」
「その……なんだ。プ、プロポーズと受け取ってくれて構わないよ、アカリ」
そう言ってシスルは彼女……アカリの黒髪を撫で、頭に口づけをする。するとアカリは顔を真っ赤にして俯き、また黙りこもってしまった。シスルはアカリから離れると、意を決して書斎へと向かった。
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