ヒナマツリ

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ヒナマツリ

「美味しい! これで本当に無料なの!?」 目の前に広がる豪華な料理に、思わず独り言がもれる。 私は、懸賞で当たった招待旅行で、ここ大鳥村にある小さな旅館に来ていた。 「これ、この村で作っている地酒なんですけど、よかったらどうぞ」 そう言いながら、旅館の女将が酒を勧めてきた。 「あ、いいんですか?」 もともと酒好きな私は、勧められるままに酒を一気に煽る。 「うわあ! これ、すっごく美味しいです!」 口当たりのいいフルーティーな味わいは、どこぞの銘酒にも負けていなかった。 「ここは近くに海もないし、温泉だって湧いていないですからねえ。こうしてお酒や料理で郷土興しをするしかないんですよ」 確かに、ここは観光名所でもないし、さっき入ったお風呂もお世辞にもいい湯だったとは言えない。 しかし、他に産業もなさそうなこの村では、観光が最後の頼みの綱なのだろう。 この招待旅行だって、村興しの一環に違いない。
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