信条

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「やべ、今度は本物の『鬼』登場」 そう小声で言って岡本さんは慌てて姿勢を正す。 周りの人間もほぼ同時に同じように背筋を伸ばしたりイスに座り直したりしたから、振り返らずともその人物が誰なのかわかる。 少し顔を後ろに向けると、その人が入り口からこちらに歩いてくる。 営業部にどこか張り詰めた空気が流れる。 各々パソコンを操作したり電話したりして部屋の中は無音ではないのだけれど、仕事をするうえで無駄な音がしない。 カツカツと綺麗に磨かれた黒い靴を鳴らして歩く部長が私のデスクの後ろを通り掛けた時、座ったままだが軽く会釈をした。
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