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正直、全くの予想外。
そこにいたのは千秋の姿をした臆病なのに勇気を振り絞った恋する女の子だった。
しかし、俺は対応できなかった。
俺の中の何かが壊れ、一瞬言葉を失った。
そして自己防衛本能が発動し、いつも通りに振る舞った。
「じゃあな。
あんまりシケタ顏してんじゃねえぞ。」
「うん、
あ、ねえ翔大は…」
「ん?」
「あ、なんでもない。
おやすみ。」
「おう、またな。」
家まで送ったが、千秋は笑っちゃいたけど、なんか元気がなかった。
もう、
あの頃のままじゃいられない。
そう、
あの頃のままじゃいけないのかもしれない。
そのあと、会社の部署統廃合が本決まりになり、俺は春から都内勤務が決まって、さらに慌ただしくなった。
もう千秋にもそう簡単に会えなくなるのかもしれないな。
そう考えるとなんか物足りないような、寂しいような、そんな感じはしたが、忙しさにかまけて連絡も疎かにしてしまっていた。
3月あたまにうえちんの二次会の件でうえちんの妹から連絡があり、会うことになった。
駅改札を出たところの本屋でうえちん妹の美紀ちゃんと二次会の店を物色し、新婚旅行先を聞き
「ハワイ?
ド定番じゃん。うえちんらしいわ。」
とか
「駅近で貸切できて、安上がりでそこそこ美味くて」
などと話し二次会の店、ゲーム、景品などの大まかな話、招待客への連絡法などを、旅行情報誌や婚活雑誌、グルメ情報誌を立ち読みしながら決めた。
しかし、この本屋での光景を千秋が偶然見ていたことなど知るわけもなかった。
次の日帰ってからもう一人の幹事 吉永聡美に連絡した。
こいつも中学の同級生だが、偶然うえちんの嫁さんの働いている美容室の後輩だったため幹事を任されていた。
「…そんな感じ。後は当日。」
「あ、うん。なんとかなるでしょ。」
「へー、しかし、姉さん女房とは聞いていたけど、4つ上かよ。
当日が楽しみだな。」
「そうそう、昨日さ千秋に偶然会ったんだけど、なんか様子が変だったのよ。」
「変?」
「なんか泣きはらしたみたいでひどく落ち込んでたのよ。
彼氏にでも振られたのかしら。」
「彼氏?
そんなのいないだろ。」
「あら、さすが翔大ね。」
「なにが。」
「なんでもないわ。
でも何かあったら力になってあげてね。
じやあ。」
そう言い残して吉永は電話を切った。
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