ある夏の日

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そのまま僕たちは教室に入った。 教室の中はまさに天国で、冷房がガンガンと効いている。 廊下とは天と地の差だ。 だから廊下で立ちつくす生徒など皆無と言っていいほど見受けられなかった。 「天国と地獄だな」 「ああ」 桜木の言葉に短く相槌を打ち、僕は席へ座る。 一息落ち着くと、チャイムが鳴った。 また今日一日、何も起こらない平凡な一日が進むのだろう。 それに関しては別段どうとも思っていない。 怠惰に過ごす、それもまた人間の特権の一つだ。 教室の扉がガラッと開く。 先生が入ってきて短いホームルームが始まった。 出席確認が始まり、先生が空いている席を探し始める。 「あれ、立川は休みか?」 立川……。 話したことはないが、確か本名は立川 玲だったと思う。 明るい性格で、女の子の間でもとても人気だという噂だ。 何度か異性に告白されたこともあるらしいが、実際に付き合っている姿を見た人はいないらしい。 全て人づてからの伝聞情報とはいえ、僕も毎日彼女を見ているので、そういうイメージは多少はある。 あ、いや、興味があるとかそういう意味ではなく、視界に入ってしまうということだ。 でもまあ彼女も人間だし、何らかの理由で休む時だってあるだろう。 あまり気にせず、僕は先生の言葉に耳を傾けた。
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