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時は19世紀半ば。
科学技術が著しく発展し、躍動の時代であった。
人間はとある禁忌の研究を始めてしまう。
遺伝子研究学ーー。人の遺伝子を研究し、改造する恐ろしい研究である。
その研究結果の末、人間は「オーガニクス」と言う自身の身体を武器に変換する、と言う新しい種を生み出した。多くの科学者は歓喜し合ったが、研究があまりにも非人道的、兵器開発なのではないかと言う批判を唱える者達も多かった。
また、生まれたオーガニクス種の多くは自身の遺伝子を操作された人間との関わりに消極的でもあった。
勿論、研究は成功ばかりではない。問題も山積みだったし、失敗も多かった。初期型のオーガニクス種は非常に短命であったし、拒否反応からの死亡者も多数いた。
そして、何よりオーガニクス種の成り損ないーー所謂「失敗作」は今日においても人間の脅威となっている。
曰く、彼らは肉体を持たず。
曰く、彼らは意思を持たず。
彼らは人間やオーガニクス種に憧れ、主に喜びの感情を発する人間の元に集まる習性を持ち、そしてーー肉体を喰らう。肉体を喰らった者は肉体を得て、人間社会に溶け込む。
科学者達はその失敗作を「DEMOS」《デモス》と名付けた。
DEMOSの習性を危険視した世界政府は彼らに対抗すべく、凶暴化した彼等を始末する為の機関「-Night†Mare-」《ナイトメア》を秘密裏に設立する。
DEMOSの肉体は普通の武器では傷一つ負わせる事は出来ない為、オーガニクス種の協力を要請。要請に応えた少数のオーガニクスとオーガニクスの能力に適応出来る人間。
かくして「-Night†Mare-」は極少人数で組織されたのだったーー。
それから数十年が経過したある日。強盗や窃盗、殺人等治安が悪いとされている、ベルサダムの街郊外のダウンタウンを呑気に歩く青年がいた。
彼の名はリベラル・アサインメント。
クセのない茶髪に、空色の瞳。トレードマークは丸い瓶底眼鏡のおっとりとした性格の青年だ。愛用の古びたトランクをどさりと道の真ん中に置き、大きく背筋を伸ばした。
「んー…、汽車の旅は悪くはないんですが…肩が凝るのと場所によって椅子が硬いのが難点ですねぇ…」
のほほんと呟き、大きな欠伸を一つ。
リベラルの胸元には「-Night†Mare-」の組織の人間と言う証し――ブロンズのピンバッチが着いている。
「さてと。今回のターゲットさんの居場所の確認でもしましょうか」
そのまま不意に路上に蹲り、トランクを開けてがさごそと探し始めた。勿論、通行人はそこそこ居る(どの通行人も不快そうな表情、舌打ちをする者もいたが当人はお構いなしである)。それにしても、愛用のトランクの割には中身は随分と乱雑に入っていた。どの書類もぐしゃぐしゃだし、おまけに食べかけのお菓子等も詰め込まれていてお世話にも綺麗とは言えない。
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