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「ええっと…これは先月の資料で、こっちは領収書で、出さないと経費で落ちないから早く出さないと。…そしてこれは秘蔵のお菓子で………うわっ!」
熱心にトランクの物色を続けていたリベラルに男が勢いよくぶつかってきた。
まあ、仕方ないと言えば仕方ないのだが。道のど真ん中で鞄漁りをしているのが悪い。
「おい、兄ちゃんよ。こんな道のど真ん中に座り込んでたら邪魔だし、何より危ねぇだろうが」
無精髭を生やした男はそう文句を言うだけで特に怒りもせず、寧ろにやりと笑みを浮かべ、そのまま去っていった。
「すみません、気をつけま………って、あれ?」
くっしゃくしゃになった目当ての資料を見つけたリベラルはとある違和感を覚えた。
さあっと顔を真っ青にし、恐る恐るジャケットの左ポケットに手を入れる。何の感触もない。慌てて立ち上がってバシバシと身体を叩いたり、ジャンプしたりするも無駄であった。
「さ、財布がないー!?」
もしかして、さっきぶつかってきたあの無精髭を生やした男に――?
怒らず、寧ろやたらにやついていたのはそう言う理由だったのか、と呑気に頭の中で自己解決するリベラル。
どうやら盗られたのは財布だけのようだ。同じくジャケットの中に入れていた仕事用の機器類は無事だった、が。
「追いかけないと!今日は何も食べてないですし、帰りの切符があの中に―!」
慌ててトランクを閉め、男が消えていった人混みの中へと走っていった――。
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