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リベラルはすっかり忘れていたが、此処は特に治安の悪いとされるダウンタウンの街。あのまま救助されなければ、青年の言う通りになっていたのは確実だろう。
「ところで…お前、何者だ?」
ぞぞーっと血の気が引いていた所に、不意に声をかけられた。
「え?僕ですか?」
「他に誰が居るんだよ。お前、この辺じゃ見ない顔だし、その綺麗な身なりじゃ狙われても仕方ねぇぜ。わざわざ観光って訳でもねぇだろ、こんな所に」
リベラルはにこりと微笑んで、ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「僕はDEMOS対抗組織『-Night†Mare-』の調査員、リベラル・アサインメントと申します」
名刺を受け取った青年は胡散臭そうにリベラルを見つめた。
「へぇ。風の噂には聞いてたけど、マジであるのな、この組織」
青年は興味なさげに名刺をリベラルに返すと立ち上がって空になった自分のカップにコーヒーをそそいだ。
「まぁ、ぶっちゃけ裏稼業みたいなものですからねぇ。幾ら世界政府が満場一致で設立したとは言え、知らないのが普通ですし」
あはは、と軽く笑いコーヒーを一口飲むとリベラルはむせ返った。青年は不思議そうに首を傾げる。
「…?これ、インスタントじゃねぇんだが?」
「げほっ、げほっ…!に、苦っ…!すみません、僕ブラックじゃ飲めなくて…」
「あ、そう。悪いな、俺ブラック派だから気が利かなかった。砂糖とミルク……あったっけ」
冷蔵庫を開けて瓶に入れてあった牛乳瓶を取り出し、戸棚から袋に入った砂糖をテーブルに置いた。
「度々本当にすみません…」
満足そうに瓶に入った牛乳をカップに溢れんばかりに注ぎ、砂糖が入った袋からこれでもかと言わんばかりに砂糖を流し込んだ。最早コーヒーの原型をとどめていない。スプーンで混ぜる度に底に溜まった砂糖がじゃりじゃりと音がした。
リベラルはご機嫌で一口飲むとうん、
美味しいと満足そう呟いた。一方青年は唖然としている。
「………いや、入れ過ぎじゃね?」
「そうですか?美味しいですよ~」
本当に美味しいのだろう、にこにこと幸せそうに激甘コーヒーを飲むリベラル。ほっこりしつつカップを空にすると、リベラルはふと思い出したかのように、あっと声をあげる。
「なんだよ?」
「そう言えば名前お聞きしていませんでしたね。差し支えがなければ教えて頂けませんか?助けて頂いた恩もありますし」
「財布すられて文無しの奴が何をしてくれんのかわかんねーけど…。ま、いいや。俺はワーカホリック・ヘルスパンダー。長いからリックでいい。周りもそう呼ぶしな」
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