「…と、土方先生は仰いました」

2/73
246人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
――時は幕末。 武士が世を占めた時代……。 その町の一角に、少女は立っていた。 「うっは…やっぱ夢じゃない、か…。」 身をつんざくような寒さの中、少女は呟いた。 誰も来ないような路地で、ただ一人、呟いた。 「よし、帰ろ。これ以上長居してたら命が消え果てる」 少女は長い黒髪をかき揚げ、立ち上がるとひとつの場所を目指し、スタスタと道を踏みしめて行く。 「…坊主、命が惜しけりゃ、金だしな」 少女が道を歩き始めて大通りにでると、一人の男がそう言って絡んできた。 「…はぁ、すみませんねぇ…おじさん。てめぇに出す金なんざびた一文も持ち合わせてねぇよ」 ため息をついた後、少女は男に睨みを利かせると、刀の鯉口を切った。 「言っただろ?命が惜しけりゃ、金だしな」 男は今にも斬りかかってきそうな雰囲気だ。 なのに少女は…、少しも動じずにただ前を見据えている。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!