桜の木の下で

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深呼吸するように息を深く吸った。 「事故の時は、助けてくれてありがとう」 どうしても自分でお礼をいいたかったんだ。と、背の高い彼が言った。 理事長だ、女嫌いだ、俺様だ、彼氏持ちだ。 そんな噂なんて関係なく、いいひとなんだなって思えた。 くすくす笑うわたしを見て、 「い、て」 同じく小さく笑っただけでも体のどこかが響くみたいで、痛ててと眉をしかめる。 大丈夫ではなさそう。 「退院されたんですか?」 運ばれた時には血がついていた顔も今は眉の上に傷テープが貼ってあるだけだけど。 腕は吊っているからヒビはいっていたか、折れたかだろうし、この様子じゃ退院させたりはしないよね。 ましてや、周りの人たちが黙ってないだろうし。 案の定、 「龍一郎さまは外出されただけですので」 やっぱり。 彼は丸井さんを見ていたけど、つっと視線をわたしに移して、 「少しの時間でいいんだが、場所を変えて話ができないだろうか。……ここは注目を集めすぎる」 そういえばここ学園正門前だった。 周りを見渡すと遠巻きに視線が集まっていた。 「悪いようにはしない。約束する」 そう言われて嫌と断れるひとなんていない。 わたしは頷き、月野さんに促されるまま車の後部座席に座った。 隣には月野さんが丸井さんに支えられて乗り込みドアが閉じられた。
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