桜の木の下で

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月野さんはわたしをどこへ連れて行こうとしてるんだろう? 「もうすぐ着きますので」 運転している丸井さんはミラー越しに丁寧に頭を下げた。 車は市街地から少し離れた広大な敷地の中に滑り込んだ。 見事な御屋敷が。日本庭園があって、鯉が泳いでいる池があって――― ここって。ここって、 ここってどこ~? 「ああ、わたしの家だが」 ドアが開けられて車から降り立った。 「すごいお屋敷…」 「そうか?」 月野さんがさらりと受け流しつつ玄関を開けると、そこには和服を召した綺麗な女性が立っていた。 戸惑っていると、 「まあかわいいお嬢さん。さあ、どうぞ奥へお入りになって」 と、スリッパを差し出された。 挨拶すると和服の女性の持っている雰囲気が和らいだ。 「母さん、事故に遭った時に手当てしてくれた天宮真由さん」 「ふふ。可愛らしい方ね、お父様は応接間でお待ちよ」
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