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「ねぇチャン、そこのタオル敷いているとこに、にぃチャン寝かせるからそのまま額の止血も頼むな」
おじさんは額に浮かんだ汗を拭い、渋滞してきた道の交通整理をしにその場を去っていった。
「もう少し押さえてれば血が止まるかも」
「……すまない、迷惑かける」
わたしは自分の上着を脱いで風に晒されないように彼の胸元にかけた。
そのとき、微かにサイレンの音が風に乗って聞こえて、音は近くなったり遠くなったりしながらこっちに近付いてきた。
そして、すぐ近くに停まった。
中から隊員が降りてきて横たわる彼と向き合った。
月野 龍一郎。
名前と体の状態を確かめると、隊員ふたりは肩を固定し手早く担架に乗せた。
一瞬、担架に乗せられた彼と目があったような気がしたけれど、手際よく救急車に運びこまれ、サイレンの音と共に走り去っていった。
あの人……
つきのりゅういちろうっていう名前なんだ。
きっと、もう会うこともないんだろうな。
赤いランプを見送りながらそう思ったのだった。
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