雲の上のひと

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「月野 龍一郎?」 ふたりは目を丸くした。 「知ってるの?」 「知ってるの?って……真由。たぶん、それ、この学園の理事長の名前だよね」 え?そうなの? あ、だから見たことがあるのか。 入学式の時に見たっけか。 「この学園やムーンホテルも持ってるお金持ちだし」 あ、月野だから、ムーンなんだ。 「なんだあ、そっかあ」 順子は途端につまらなそうにクチビルを尖らせた。 「真由が頬染めてうっとり思い出してたから、てっきり、その男に一目惚れしたのかと思ったのに」 「ひ、一目惚れ?いや、ち、ちが、違うって!」 「だけどいくら若くていい男でも、手の届かない雲の上の人じゃあね」 いかにも順子は残念といった表情を浮かべた。 「理事長って、金持ちでわがまま、俺様で、女嫌い。女嫌いだけならまだいいけど、実は彼氏持ち」 「彼氏もちってことは……?」 「きゃー、言えなーい」 じゃあ、あの人が呼んでた名前って彼氏だったんだ。 「女がそばに近寄るのも許さないんだって」 そんなふうには見えなかったんだけどなあ…… ふたりから聞いた話はなぜかショックだった。 月野 龍一郎 やっぱり雲の上の人だったんだ───
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