花火大会の夜

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龍一郎さんと駆けつけた病院の待合室で、虎一郎さんが座ってた。 「兄貴、親父は!?」 「お義父さん、は……?」 倒れたと聞いて慌てて飛んできて、虎一郎さんの隣のさっき花火大会で出会った可愛らしい彼女が寄り添っているのを見て固まった。 「大丈夫だ。少し風邪をこじらせたらしい。2、3週間は安静だそうだ」 「……風邪」 「少しの間、入院だな」 風邪と聞いて安心したのと同時に、虎一郎さんの隣に寄り添うさちこさんの穏やかな表情を見たら心臓に針が刺さったように痛くなった。 虎一郎さんの婚約者。 龍一郎さんときっと何かがあった女性。 龍一郎さんの顔が見られない。 さちこさんをどんな顔して見てるのかと思ったら怖くて顔をあげられなかった。 「真由?」 龍一郎さんの声にハッとして慌てて前を見た。 「よかったね…無事で」 「ああ、倒れたって聞いて焦った。親父は?」 「今は点滴が効いて眠ってる。おまえが来るって知って大げさだなって笑ってた」 月あかりの病室に入ると酸素チューブを掛けたお義父さんの姿があって、規則正しく呼吸する胸にほっとした。 しばらくして病室を出ると、龍一郎さんと虎一郎さんと話をしててその間、さちこさんが傍にいた。 「真由さん、ごめんなさいね。いきなり呼び出されてびっくりしたでしょう?」 穏やかで優しい彼女は柔らかく笑ってた。 「あ、ひかるさん」 龍一郎さんの妹のひかるさんがたくさんの荷物を運んできてそれを手伝う。 虎一郎さんの婚約者のさちこさん、すっごく優しくていい人で。 見てるとなんだか泣きたくなった。 嫉妬してるわたし。 そんなわたしが醜く思えて悲しかった。
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