花火大会の夜

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次の日。 龍一郎さんが病院にお見舞いに出掛け、その後入れ違いで寒河江さんがきた。 「親父さん、倒れたんだってな?それで龍一郎は?」 「今さっき、病院へ」 「そうか、すれ違ったか。……親父さんはよっぽど疲れが溜まってたんだな」 寒河江さんを見たら、突然泣きたくなった。 さちこさんのことがずっと引っ掛かってたから。 「真由さん!?」 「ご、ごめんなさ、い」 ポロポロ溢れて落ちてくる涙を慌てて拭う。 泣いちゃダメってわかってるのに歯止めが利かなくて、龍一郎さんのことをこんなに好きになってたんだって。 嫉妬でいっぱいいっぱいになるほどに。 「……目の前で泣かれたら困るんだけど」 寒河江さんが困ってるのわかるのに頭の中がぐちゃぐちゃで止められない。 「男の前で泣いたらダメだってわかってる?」 寒河江さんが子供にするようにわたしの頭を撫でた。 わかってる。 泣いたら困らせるだけだけだって。 寒河江さんが泣いてるわたしの頭をそっと包んでくれた。 まるで幼い子を慰めるように。 「龍一郎と……何かあった?さちこさんのこと?」 違うの。 龍一郎さんのことを切ないほど好きなんだって気づいただけ。 「……俺、ホントは」 キュッ 包み込んでくれた腕が背中を閉じ込めた。
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