花火大会の夜

13/14
2174人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
「……なんで泣いてた?寒河江と何があった?」 言いたくなかった。 さちこさんに嫉妬してどういう関係なのなんて聞きたくなかった。 龍一郎さんの口から過去のことでも何かあった人のことを知りたくなかった。 「まさか……アイツおまえに」 「違う。寒河江さんはそんな人じゃない。わたしがさちこさんのこと」 「さちこ?」 ハッと思った時にはもう遅かった。 気づいた時には虎一郎さんの婚約者のことを口にしてた。 もう隠せない。 龍一郎さんが目で追っていたさちこさんのことを本当は聞きたかった。 龍一郎さんとさちこさんの間に何があったのか。 好きなの? だったらわたしは。 瞼が熱くなって泣きそうになる。 「さちこさんを……好きなの?」 龍一郎さんが目を見開いてわたしを見た。 息を飲んだのがわかる。 龍一郎さんのお兄さんの婚約者。 とてもきれいな人でとても可愛らしい人。 ずっと目で追ってた。 そのくらいわたしにだってわかる。 「……それでもわたしは龍一郎さんが好き」 離れたくない。 涙で視界が歪んでく。 龍一郎さんの表情が見えない。 「バカだな、おまえは」 きゅう この上ないほど優しく抱きしめられた。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!