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「74歳妻を絞殺容疑、77歳夫を逮捕・・・」
と大きな見出しがあった。ネットに記載された記事は、どうやら地方紙の速報のようで、詳しくは書かれていなかった。
今朝の未明に、同居中の息子・佐久間さんが、歩けない母親の様子を見に、部屋に行った所、母親が息をして居ない事に気付き救急車を呼んだ事から事件は発覚したようだ。
佐久間さんのお母さんは、去年の夏にちょっとした事で転倒し、その時の怪我で歩く事が困難になり、車椅子生活をしていると聞いていた。
そんな母親を気にして、佐久間さんは様子を見に行ったのだろう。
だが、どう言った状況でお父さんが逮捕に至ったのかはまるで分からないような記事だった。
もしかすると介護疲れによる突発的な衝動が原因なのかもと密かに思った。
しかし、そうなると同居中の息子・佐久間さん夫婦にも、何をしていたんだと風当たりが強くなるんじゃないかと、不安になる。
まして佐久間さんの家庭には、上は中学生3年の受験生から下は小学5年生まで、3人のお子さんが居る。子供達が、いじめられたり嫌な思いをしなければ良いがと、心配するしか出来ない。
こんな時、例え知り合いでも何も出来ないものだと、無力さを感じざるおえない。席を外した和馬の代わりに、椅子に座り、少しでも詳しい記事が無いか検索する。
しかし、やはり速報の様で、何処も似たり寄ったりでまるで要領の得ない物ばかりだ。
暫くすると、和馬が携帯を片手に戻ってくる。嫌な予感がする。和馬は、良くも悪くも素直だ。
一度こうだと思うと、回りが見えなくなる。
時計を確認すると未だ8時、溢れそうになる溜め息を飲み込み、代わりに声を吐き出す。
「ねぇ、こんなに早く誰に電話したの」
普段、こんな事は聞かないのだが、心の中に渦巻くモヤモヤがそうさせた。
「あぁ、高校の時の連れに、佐久間の事聞こうかと思ってさ、でも出なかった」
やっぱり、そう思えばその考えの無さが頭にくる。
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