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3人揃って食卓に着く。
「いただきます」
手を合わせた後、箸に手を伸ばした時だった。
「なぁ、礼服用意だけしといて」
「礼服?」
「そう、佐久間ん家の行かなきゃいけないかもだろう」
また、姑にいらない事をいわれたのだろうと、瞬時に分かる。
箸を戻して和馬に言う。
「あのさ、普通の亡くなりかたじゃないのよ。葬儀っていっても、密葬になる可能性の方が強いし、警察が関係してるんだから、昨日の今日でそんな話にならないと思うよ」
「だよな。でもお袋が、行かないような不義理をするなって、煩いんだよ」
何を考えて居るのだろう? 姑と私はことごとく考え方が違う。
こんな状況下で行けば、火事場の野次馬みたいではないか。
「あのさ、参列してもらって、佐久間さんが喜ぶとは思えないんだけど。お母さんが亡くなったといっても、原因があれじゃ、そっとしておいて欲しいんじゃない? 気になるなら、時間をおいて、仏壇だけでも参りに行ったら?」
「考えてみるよ」
その後、和馬と颯馬を送り出し、洗濯や掃除を済ませれば、いい時間になっている。
手が空くと、自然と佐久間さんの家の事が気になる。パソコンを立ち上げると、関連記事を検索する。
昨日よりは数多くヒットしてくる中、地元の新聞やテレビ局のホームページに入り、記事を読む。
事件の内容については、依然変わり映えしないが、近所の人から聞き込んだと思われる、佐久間家の様子が載せられている。
怪我により歩けなくなったお母さんの介護の為に、お父さんが仕事を辞めた事。
町内の催し物に、夫婦仲良く参加していた事。
お父さんは温厚な性格で、スポーツマンだった事。
介護を始めて、趣味のテニスが出来なくなったと溢していた事。
最近、疲れたと元気が無かった事。
頭に老老介護と言う言葉が浮かぶ。
子世帯と同居しているにも関わらず、どうしてそうなったのかと、ふと思う。
だが、それぞれの家庭には、他人が想像もつかない事があったりもする。
その事で、佐久間さんをどうこう思う事はしないでおこうと思う。
私の知っている佐久間さんも、お父さんと同じ温厚な人だ。何か事情があったのだろう。
だけど、恐ろしいものだ。何もかもが露になっていくようだ。
それでも私が母だからであろうか、一番気になるのは、佐久間さんの子供達の事だ。
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