ヤマブキソウ

38/63
前へ
/152ページ
次へ
後ろから耳打ちするような、声。 ……切ない?  カタカタと指を動かしたまま、あたしはそれを聞き流す。 「寂しいって、顔してる~」 そう言いながら椅子と一緒にコロコロと寄ってきたのは 仲村さんだ。 よりによって、なんでこんな席近いの? 可愛らしいマグカップから苦い匂いが流れてくる。 朝からブラックコーヒーなんて、あたし絶対に飲めない。 「…仲村さん」 「ん~?」 あたしはクルッと椅子を回転させて、仲村さんと向き合った。 「なんで、田辺主任がいないからって、寂しがんなきゃいけないの!」 周りに聞こえないよう小声で言って 彼女をキッと睨んだ。 「……あたし、田辺主任がいないからなんて一言も言ってないのに~!」 ダメだ 誰かこの子を止めて。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加