序章と出発

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先生が部屋から出て行くと、服を着替えようと手を伸ばす。 今日置いてあった物はいつもの服ではなく、真新しい学校の制服。 何かのモンスターの皮で作られた物で、ブレザーと言うらしい。 安っぽい麻布の服しか着た事のないオクスは、少し戸惑った様だった。 「にーちゃー!早くこないとテッケンだぞー!」 子供の声で我に帰り、急いで着替える。 感傷に浸るよりもあの拳の方が余程くるものがあるのだ。 「ようやく来ましたね。後10秒遅かったら…、なんですかそれは」 オクスの姿を見るや、ため息をつく先生。 ベルトは曲がり、シャツが半分出て、ネクタイは首に巻かれているだけ。 要するにめちゃくちゃなのだ。 「ぐちゃぐちゃ、な!」 「にーちゃ、ぐちゃぐちゃ!」 「うっせ、わかんねーんだよコレ」 「はいはい、教えますからこっちに来て」 先生に教わって、ようやくまともに着る事ができ、朝ごはんとなった。 「それでは皆さん。神に感謝の言葉を…」 「「いただきます!」」 本当はもっと長いのだが、ここには小さな子供も多いため、略式が当たり前になっている。 この孤児院で暮らす子供は6人。 ラス、セスタ、マイセ、ラーク、クル、そしてオクス。 彼らは本当の家族の様に暮らしている。 食事が終わり、オクスの出発の時間になった。 「にーちゃ、いなくなるのか」 ラスが寂しそうに呟く。 「たまには顔、出すよ」 「絶対、な!」 セスタが泣きそうな顔で笑う。 「頑張ってね、オクスにぃ」 「ちっこいのは任せろ!」 「また、ね」 マイセ、ラク、クルがしっかりとしている。 なんとかしてくれるだろう。 「そうそう、あの子に会ったらコレ。渡しといてね」 「あんまり会いたくないんだが…」 マリア先生から手紙を預かる。 オクスより3年早く学校に入った、姉の様な存在がいるのだが、彼女に手紙を渡すようにとの事だ。 オクス自身はあまり会いたくないようだが。 「つべこべ言わない。それでは、…いってらっしゃい」 「…いってきます」 最後は優しい声で、先生に見送られる。 これからは寮生活。 当分はここへ帰ってくる事もない。 それでも…。 「…やってみるか」
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