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背中まで伸びた髪は少しオレンジがかったようなナチュラルな茶色。
それはまるで天使の翼。
戦女神のごとく凛とした顔立ち。
真っ白で細長い指。
右手にはそろいかけのルービックキューブ、左手には小粒のミカンが。
指先でそろえられてゆくルービックキューブ。
もう片方の手は皮をむいていないミカンを小さな口へ運ぶ。
一面がそろったと思えばまた崩し、崩れたあとはまた戻り。
各面が、各色が、ゆっくりとだが確実にそろっていく。
彼女の手の中で、美しく整理された立方体となるのだ。
単純に、圧倒された。
俺にもできるかな?
できるようになれば、あの人と話せるようになるのかな?
そんなことをぼんやり考えていた。
「べほっ」
葵の喝を食らって、俺は現実世界に呼び戻された。
「カエルに睨まれたヘビのように硬直してたわよ」
「それを言うならヘビに睨まれたカエルな」
すかさずツッコミを入れる。
「そんなことより九武、制服が……」
味噌汁まみれだぜオイ!
「もう、ボンヤリしすぎなんだから。あんた大丈夫なの?」
「べ、別に俺は大丈夫だぜ。ちょっと体内エネルギーのチャージがだな……」
「ご飯を食べてたんだから充電は終えたんじゃないの? それとも、端の席に座ってた先輩のことをさっきからじ~っと見つめてるみたいだけど、何かカンケイあるのかな~?」
「ち、違うんだ。あれは……なんか分からねえや。今までこんなことはなかったから」
視線を落として深く考え込む。
「うん、それはズバリ一目惚れね」
葵はそう断言した。
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