ひとつ折り

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折り紙に没頭しているうちに、僕の足は小学校の門をくぐっていた。 毎日同じ道を通るので、足が覚えているのだ。 今日は自由展覧会の日。 体育館は児童作品の美術館になる。 一年生がこねあげた粘土の人形。 二年生が遠足の思い出を描いた絵。 三年生がペットボトルを集めて作った等身大ロボットの模型。 四年生の作品は、折り紙で作ったタイルを貼りつけたモザイク画だ。 体育館の出入口から一番遠い舞台前の壁に飾られている。 折り紙以外に興味のない僕は、展覧会の日は毎年のようにサボっていた。 だけど今年は学級会で勇気を振り絞って手を挙げ、折り紙のモザイク画を提案した。 最初に多数決で決まっていた貼り絵の案が五年生に先取りされてしまったため、クラスでもう一度案を出し合うことになったのだ。 教室でほとんど会話をしたことのなかった僕が手を挙げたとき、先生やクラスメイトがどんなに驚いたことか。 それだけではなく、積極的にみんなをまとめて指示を出し、一枚の巨大な作品を完成させたのだ。 今日は作品の出来具合を確認しに来た……というわけでもなかったりする。 来るように言われていたから来ただけのこと。 すでに折り上がった作品には興味はない。 一度折ったパターンは、折る手順から完成にいたるまで、すべて頭の中に織り込まれている。 早く新しい作品を折りたい。 折り紙を触っていないと、死にそうになる。 僕は千羽鶴用の小さな折り紙をポケットの中でいじっていた。 手元は一度も見ていない。 誰も僕が折り紙を折っているとは気づかないだろう。
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