ひとつ折り

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「約カンマ五ミリ」 え? 背後から、折り鶴の尻尾のような先の尖った感じの高い声がした。 「あなたの折り方は丁寧で綺麗だ。でも斜めに三角折りをするとき、平均してカンマ五ミリのズレが見られる。折り癖という奴だな」 僕は後ろを振り返った。 そこには僕と同じくらいの年齢の少女が立っている。 黒い長髪。 見たことがない顔だ。 他校の生徒だろうか。 それとも転校生? 体育館には学校の先生や児童だけでなく、児童の親や近所の住民、他校の児童がごちゃごちゃと入り混じっている。 その中で少女の声だけが独特の雰囲気をかもし出して浮かび上がる。 ポケットの中で手元が狂い、紙の端で中指を切った。 「あなたに言っているのだ、そこのボウヤ」 少女には不似合いな男性口調。 ボウヤって……年の差なんてほとんどないじゃないか。 「ほう、日本の伝統折り紙の『かざぐるま』から四枚の羽を潰して正方形にし、真ん中にデザインを折り込んで一枚の紙のタイルを作るわけだな。タイルを張り合わせれば、モザイク画の完成というわけだ」 少女はモザイク画を眺めながら言った。 凄い観察力だ。 完成形から元の折り方を類推するなんて。 「折り癖を見たところ、そことあそこと、その右上のタイルは少なくとも君が折ったものだろう?」 指先でタイルを一つ一つ示していく少女。 全部正解だった。 手のひらにじんわりと汗が広がり、ポケット内の折り紙がしなびてゆく。 「お、折り癖って?」 「ただ紙を半分に折るだけでも、その折り方は指紋や筆跡のように人それぞれ違うのだよ」 そんなこと、聞いたことがない。 本当だろうか? 「へえ、そうなんだ。初めて知ったよ」 もつれる舌で僕はそう言った。 手汗でたわんだ紙のように、舌先が巻いている。
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